第21回グローバルカフェのレジュメ(22/11/19)
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第21回 関学グローバル・カフェ
2022.11.19
中間選挙後のアメリカを読む
関西学院大学フェロー 小池洋次
hrkoike1022@yahoo.co.jp
要約
・アメリカ中間選挙は歴史的な大接戦となった。優勢とされた共和党は苦戦したが、それでも下院を奪還した意味は大きい。これからも社会の分断と敵対的な政治状況という現実は変わらず、さらに深刻になる可能性がある。
・トランプはアメリカ政治の主役であり続けるだろう。では、その彼が強い影響力を持つことのなにが問題なのか。この点を明確に認識することが大事だ。
・何より、国内外において多様な勢力を結集してきたアメリカの強みが失われ、国力が弱体化することを懸念せざるを得ない。中ロ両国はこの状況を捉えさらに冒険主義的行動に出る可能性もあろう。
1.中間選挙の結果とその意味
(1)上下両院とも勢力が拮抗、僅差ながら上院は民主、下院は共和が支配政党に
・上院:民主50 共和49(現在は50:50。ジョージア州は12月6日に決選投票)
・下院:民主211 共和218(現在は220:212、過半数は218)…11月17日現在、AP)
・大統領の支持率低迷でも上院を押さえ下院の議席減が少数――は史上初か(参考:CNNの分析 “How Joe Biden and the Democratic Party defied midterm history”)
(2)異例の展開:前大統領が主役、その審判の意味も
・トランプ推薦候補:上下両院で多数当選…180人中162人。
ただ接戦州では敗北…上院の激戦6州では勝ったのは1州のみ。
象徴的なペンシルベニア…上院はフェッターマン副知事が医師のメフメトに、知事選はシャピロ州司法長官がマストリアーノ州議会議員にそれぞれ勝利
・トランプ責任論:保守系メディアも「トランプは敗者」(参考:FOX Newsの分析”Ron DeSantis is the new Republican Party leader”は最大の勝者はデサンティス・フロリダ知事で、最大の敗者はトランプ前大統領と指摘)
(3)今後の注目点
・下院が台風の目に:様々な調査を開始、場合によっては弾劾も
・共和党内の主導権争い・分裂の可能性
・トランプ時代の「終わりの始まり」とは希望的観測。下院を通じて影響力を行使しようとするだろう。
2.トランプの影響どこまで
(1)共和党内の「トランプ離れ」は本物か
・党内有力者の批判的動き:例えばペンス前副大統領の発言
・若者、女性からの批判は続く
・議員が逆らえない理由
(2)各種訴訟とトランプ起訴の可能性
・捜査対象:①1.6議会襲撃の扇動②ジョージア州での選挙介入・妨害③機密文書の持ち出し④脱税(すでにトランプらは起訴)
3.トランプの何が問題か
(1)権力の私物化
・忠誠を求める人事:典型はコミ―FBI長官の解任
(2)組織軽視
・典型例:2016年大統領選挙へのロシアの介入について自国の情報機関を無視(2018年7月のフィンランド・ヘルシンキでの首脳会談、その後の会見は衝撃を与えた)
(3)同盟軽視
・NATOを「時代遅れ」とも発言
・外交も、独断専行型、各国に不信と混乱
(4)事実軽視
・ワシントン・ポストによるファクト・チェック:4年間に3万573回、虚偽ないし欺く主張(In four years, President Trump made 30,573 false or misleading claims(Updated Jan. 20, 2021)(1日に20回以上)
(5)人格について
・メアリー・トランプ(姪、臨床心理学者)によると、トランプは反社会性人格障害の診断基準にも当てはまり、この障害が重度の場合は社会病質者(ソシオパス)。その特質は①共感力がなく②平気で嘘をつく③善悪の区別に無関心④人権に意に介さない。
4.大統領選は混戦に
(1)共和党
・トランプが優位だが、党内外からの批判や数々の訴訟を抱える。司法省がどう動くかも焦点の一つ。仮に当選すると、グローバー・クリーブランド(Grover Cleveland, 1837-1908 )以来。
・有望株とされるデサンティス・フロリダ州知事は高い評価を受けているが、カリスマ性に欠くとの声も。
(2)民主党
・バイデンは出馬に意欲。ただ支持率低迷、高齢(79歳)などの問題。副大統領のカマラ・ハリスも人気がない。
・他にはギャビン・ニューサム・カリフォルニア知事らの名も挙がる。
(3)最近の傾向
・知事は比較的有利なポジションに:カーター、レーガン、クリントンも知事出身。
・現職の副大統領は不利とされる。
5.アメリカと世界
(1)3国が専制的リーダーを擁するとき
・習近平は3期目、プーチンは2024年選挙を経て続投する可能性、米国は2024年選挙でトランプ、あるいはその影響下の政権か
(2)米国の強みが失われる懸念
・米国の特質:国内外で多くの力を結集する政策インフラ(適材適所を可能にする政策形成システムと同盟ネットワーク)を持つこと。それが損なわれる可能性
<参考文献>
小池洋次(2022)『アメリカの政治任用制度』東洋経済新報社。
同(2022)「『トランプ復権』ウクライナ戦争で露呈した悪夢」東洋経済オンライン(サイトから小池洋次で検索を)。
メアリー・トランプ(2020)『世界で最も危険な男』小学館。
<サイト等>
Real clear politics、CNN、BBC、The Washington Post、Fox News
2022年11月19日
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