6/16開催グローバル・カフェ『米朝関係を読む』まとめ

Update お知らせ グローバルカフェ 未分類

関学グローバル・ポリシー研究センター(GPRC)主催
「グローバル・カフェ」2018.6.16
米朝関係を読む

関西学院大学総合政策学部教授・GPRC代表 小池洋次

 

1.はじめに

(1)予測の困難さ なぜ専門家の予測が外れるのか
・過去の延長線上で判断、質的変化を読み取れない
・加速変化に認識が追いつかない

(2)類推の誤謬
・ドイツ型統一が近いとの認識の誤り
・北朝鮮の指導者、金正恩労働党委員長についても同様の誤り

(3)北朝鮮の生き残り戦略・瀬戸際作戦
・北朝鮮はなぜ核・ミサイル開発に固執するのか
 経済の停滞と軍事的劣勢
 後ろ盾を失う…ソ連と中国が韓国と国交正常化(90年と92年)、ソ連の崩壊(91年)リビアやイラクの教訓
・宣言・表明を吟味すると
 北朝鮮の「核実験中止」表明(4月20日)では、「核の兵器化を実現」
 南北首脳会談後の宣言で、「核のない朝鮮半島」目標。だが、具体策なし

 

 

2.米朝首脳会談のポイントと評価

(1)ポイント
・史上初の首脳会談
・共同声明発表 体制の保証については「トランプ大統領が北朝鮮に安全の保証を与えることを約束」、非核化については「金委員長が朝鮮半島の完全非核化への確固で揺るぎのない約束を再確認」「板門店宣言を再確認し、北朝鮮は朝鮮半島における完全非核化に向けて努力することを約束」などと記述。

(2)評価
・非核化について声明では「朝鮮半島における完全非核化のみ」。具体性に欠く。南北首脳の宣言を確認しただけ。CVID(Complete 完全な、Verifiable検証可能、Irreversible不可逆な、Denuclearization核廃棄)への言及なし。(2005年の6カ国協議の共同声明では「朝鮮半島の検証可能な非核化」)、ミサイルも取り上げず
・トランプ大統領は会見で、米韓軍事演習の停止と在韓米軍削減まで言及。
・北朝鮮ペースの印象。核保有国として認めさせ「軍縮交渉」、段階的制裁緩和を狙う。
・今後の閣僚級交渉の困難さ…①「完全な非核化」の意味、対象、検証方法、期間等②体制保証…具体的にどうやって?③制裁解除…解除する制裁は一部か全部か

 

 

3.米朝・南北関係の特質~「変数」は米韓

(1)独裁国家と民主国家
・北朝鮮は核武装による生き残りという点で一貫性
・米国は国民の支持を意識する結果、揺れ動くことも多い。ブッシュ大統領はクリントン前大統領の政策を踏襲せず、トランプ大統領はオバマ前大統領の政策を覆した
・韓国は「北風」と「太陽」の間を揺れる。太陽政策を取った進歩(革新)系大統領、過去に訪朝し首脳会談を行った大統領は金大中(2000年)と盧武鉉(2007年)、文大統領は盧武鉉政権で秘書室長。その遺志を継ぐ?

(2)トランプ戦略の功罪
・政治主導で変化を起こす
・「取引」外交の不安定性・不確実性

(3)危機と対話
・第1次核危機 93年3月北朝鮮がNPT脱退を宣言→94年10月米朝枠組み合意
・第2次核危機 2002年10月北朝鮮がウラン核開発を認めたと米発表→03年8月北京で第1回6カ国協議
・ペリー元米国国防長官の回顧と警告
 第1次核危機の際「寧辺の再処理施設に対して巡航ミサイルによる…攻撃を行う計画も準備するよう命令した」、訪朝したカーター元大統領からの電話「北朝鮮は我々が行動(制裁措置と兵力増派)を停止するならば、燃料を再処理する計画の停止について交渉する意思がある」

 NPT=核不拡散条約(Treaty on the Non-Proliferation of Nuclear Weapons…核保有国の核軍縮義務と非核保有国への核不拡散を規定。

 

 

4.問われる核管理~象徴的としての北朝鮮問題

(1)交渉長期化の懸念
・核施設の申告、査察、核物質の搬出と解体

(2)過去の事例
・リビア(2003~4年)と南アフリカ(1989~91年)
・旧ソ連(ナン・ルーガー計画、1991年法制化、2013年まで)

(3)核拡散をどう防ぐか
・北朝鮮が混乱に陥ったら 米中協力の必要性
・核テロの危険性

(4)核保有の不平等性
・核保有国は核軍縮に真剣に取り組んできたか

 

 

5.中長期の問題

(1)米中のせめぎ合い
・中国の台頭
・米国のパワーの相対的低下…トランプの「アメリカ・ファースト」はその表れ、攻撃的貿易政策も、「世界の警察官はない」とはオバマの時代から
・米中は「古代ギリシャの歴史家トゥキディデスが指摘した致命的な罠に陥る恐れ」

(2)東アジアの安保環境~冷戦の終焉
・統一朝鮮の行方 ハロルド・ブラウン元国防長官の問いかけ
・米軍のプレゼンスの低下
・日本の立ち位置、短距離・中距離ミサイルが残る懸念

 

 


 


i) 北朝鮮労働党中央委員会総会(4.20)から
「核の兵器化の完結が検証された」(金委員長報告)「核の兵器化を実現したことを厳粛に宣言する」「核実験と大陸間弾道ミサイル(ICBM)の試射を中止する。核実験中止の透明性を保証するため、北部(富渓里)核実験場を廃棄する」「核実験中止は世界的な核軍縮のための重要な過程だ」「わが国への核の威嚇や核の挑発がない限り、核兵器を絶対に使用せず、いかなる場合にも核兵器と核技術を移転しない」(以上、「決定書」)(読売新聞朝刊4.22)

 

ii) 板門店宣言(4.27)から
「南と北は、休戦協定締結65年となる今年、終戦を宣言し、休戦協定を平和協定に転換し、恒久的で強固な平和体制構築のため、南北と米国の3者、または南北と米国、中国の4者会談の開催を積極的に推進していくことにした」「南と北は、完全な非核化を通じて、核のない朝鮮半島を実現するという共同の目標を確認」「南と北は、朝鮮半島の非核化のための国際社会の支持と協力のため、積極的に努力することにした」(読売新聞朝刊4.28)

 

宣言についてラッセル元米国務次官補は「非核化については明確ではない。過去にはもっと明快に核放棄を約束していた。例えば(核兵器の生産、使用などの禁止を盛った)1992年の南北非核化宣言がそうだ。(すべての核兵器と既存の核計画の放棄をうたった)2005年9月の6カ国協議の共同宣言もある。今回の宣言はそれほどの内容ではない」(日経朝刊4.29)

 


 


iii) ウィリアム・ペリー(2018)『核戦争の瀬戸際で』東京堂出版。原題はMy Journey at the Nuclear Brink。本書でキューバ危機について「私たちは核兵器によるホロコースト、すなわち人類滅亡の瀬戸際まで追い込まれた」と指摘。キューバ危機は1962年10月16日から28日までの13日間。ソ連は戦略攻撃用ミサイルをキューバに持ち込み、米国は海上封鎖で対抗。グレアム・アリソン(1977)『決定の本質-キューバミサイル危機の分析』には「人類の生存にかかわる未曽有の事件。…もし実際に戦争が起こったのであれば、1億人のアメリカ人、1億人以上のソ連人、数百万のヨーロッパの人々が死んでいたであろう」との記述がある。

 

iv) ペリーは前掲書で、ウクライナなど旧ソ連における核兵器解体を詳述した。最も劇的な例として挙げているのが、カザフスタンからの高濃縮ウラン搬出作戦で、極秘のうちに何回かに分けテネシー州オークリッジに運び込んだと明らかにしている。

 

v) Oriana Skylar Mastro (2018)”Why China Won’t Rescue North Korea”,Foreign Affairs Jan/Febは、米軍が中国軍と協力して核関連施設・物資を差し押さえるよう求めている。ティラーソン前国務長官は2017年12月12日、混乱時の核物質流出阻止の必要を指摘、対応について「中国と話している」と明言した。

 

vi) ペリーは前掲書で核テロの危険については「アルカーイダが核兵器の入手に成功したなら、それをアメリカ人に対して使用することを私は疑わない」と書いた。同書の序章では首都ワシントンで核テロが起きた場合の「悪夢のシナリオ」を紹介、死者8万人、重傷者10万人などと記述している。

 

Vii) 米国衰退論は1980年代から発表されていた。代表例がポール・ケネディ(1988)『大国の興亡』草思社(The Rise and Fall of the Great Powersで、軍事的に手を広げすぎた帝国の問題を描いている。これに対してジョゼフ・ナイ(1990)『不滅の大国アメリカ』読売新聞社(Bound To Lead~ The Changing Nature of American Power, Basic Books, 1990)は反論を展開、米国はハード、ソフトの両面でパワーを持ち、かつての英国とは違うと指摘した。サミュエル・ハンチントンは「孤独な超大国」(フォーリン・アフェアーズ1999年3・4月号)で21世紀の世界が真の意味で多極化構造となり、米国は一つの大国となると指摘、他の大国と協調して問題解決に当たる必要を説いた。

 

Viii)グレアム・アリソン(2017)『米中戦争前夜』ダイヤモンド社。原題はDestined for War。トゥキディデスはペロポネソス戦争についてアテネの台頭とスパルタの不安が戦争を不可避にしたと書いた。アリソンは過去500年の歴史を調べ、新興国が覇権国を脅かしたケースは16件で、そのうち戦争に至ったのは12件で、戦争を回避できたのは4件と結論付けた。

 


 


ix) ハロルド・ブラウンはカーター政権の時の国防長官。1997~8年の外交問題評議会日米安保スタディー・グループでの議論の中で「朝鮮が統一され、米軍が撤退を迫られたとしたら、日本人は在日米軍にどう対応するだろうか」と筆者に質問した。

 

 


 

 

以下コメント(文責:事務局長 福田聡菜)

 6月12日にシンガポールで史上初の米朝会談が開催されました。
その4日後の16日に丸の内キャンパスで行われたグローバル・カフェでもまた、過去最高の参加人数で大盛況になりました。参加者の方の年齢層は幅広く、全員が熱心に小池教授の話に耳を傾けていました。

 

 さて、私個人の感想ですが、今回のセミナー内容で最も印象的だったのは『質的変化』という言葉です。『質的変化』とは歴史の変化スピードが加速し、これまでの歴史とは質的に異なる動きをするようになっているということ。
「専門家がなぜ予測を外してしまうのか、何故なら彼らは過去に起こった事象の延長線上で判断・予測をしているため、その質的な違いを読み取ることが出来ず、またその加速変化に認識が追い付かない」とスピーカーの小池教授が話をされた時、私の頭の中で何故か技術的特異点とリンクしました。技術的特異点とは、4次産業の目覚ましい発展とその変化スピードによって、2045年に人間の生活環境が大きく変わり、今までは考えられないようなことが起こったりするという概念です。これと似たようなことが、歴史にも起こっているのではないかとふと考えたのです。

 

 去年の8月、北朝鮮が放ったミサイルが北海道上空を通過していた頃に、1年もたたない内に南北首脳会談で「核のない朝鮮半島」という共同目標を掲げ、首脳同士が手を繋ぎ北朝鮮への国境を越える様を、予測出来た人が果たしてどれだけいたのでしょうか。
 アメリカのトランプ大統領においても、“War time president”になるのでは囁かれていた当時に、米韓軍事演習の停止と在韓米軍削減にまで言及すると予測した専門家がどれだけいたのでしょうか。
 今回の米朝会談では具体的に核解体が決定した訳ではなく、ミサイルはそのままで、依然日本への脅威は変わっていません。北朝鮮が核武装した状態での南北の協力関係、その後ろに控えている中国やロシアの影、加えて、会談でのトランプ政権の対応は日本サイドから考えると、同盟国として不安を抱かざるを得ない要素が少なくないと言えるでしょう。

 

 北朝鮮の核がいつ解体されるのか、過去の繰り返しになるのではないか――というのが、人々の気になる点だと思います。日本政府は何かしらの対策をとる必要に迫られるとは思いますが、今念頭に置かねばならないのは、この急速な変化に日本はついていけるのかということではないでしょうか。
 歴史的変化のスピードはより加速し、『質的変化』によりこれまでの事象の延長線上では測れなかったことが今後も起こるでしょう。その時いち早くそれを整理・認識し、素早い行動を日本がとれるかが、今後の世界情勢の荒波から生き残るための戦略の鍵になると私は思います。えてして、人は経験則で物事を判断しがちで、その予想を大きく外した事象が起きた時、すぐに認識し受け入れることができず、対応が遅れます。けれど、この様に対応が後手へまわり続けた時、日本が日本として、一人の足で立つことが困難になるような、その様に感じさせられました。

 

 良くも悪くも変わらない、日本を日本らしい安定した国のままで次世代へと引き継ぐためには、急速な変化にいかに対応し、次へつなぎ、そして日本自体が質的変化を起こす側になる必要があるのではないかと、私はこの会を通してそう考えました。

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