米帰還兵問題に関するDOD/VA連携政策の現状と課題

アメリカ政策研究

PDFで読まれたい方はこちら→概要書2月24日奥村彗

米帰還兵問題に関するDOD/VA連携政策の現状と課題
DOD/VA Joint Policy for American Veterans’ Issues

奥村 慧

【修士論文 概要】

本稿の目的は2点ある。第1に、現代アメリカの帰還兵をめぐる諸問題に関して包括的な
整理を試みることである。問題の実態、原因についてはもちろんのことであるが、問題解
決を図る上での考え方の相違点および先行研究の整理についても対象としている。
帰還兵問題とは、PTSDやTBIといった兵士の精神的、身体的障害に関する問題や、それ
らの症状を抱えた兵士による自殺、ホームレス化、犯罪行為、薬物依存などの社会問題、
さらに帰還兵への補償や治療、また自殺、ホームレス化などの社会問題対策にかかる莫大
なコストの問題など、帰還兵に纏わる望ましくない状況のことを広く意味している。ま
た、問題の種類の多様性に伴い、帰還兵問題の原因と言われる事柄も多岐に渡って存在し
ている。しかしながら、このような状況において、問題の種類、原因等、帰還兵問題の全
貌を包括的に捉え整理された文献は少なく、まず邦書の中には見られなかった。そこで本
稿では、米帰還兵に関する文献や資料の中で問題として挙げられている事柄と原因とをリ
ストアップしていき、その後、それらに対してある定義を設け、グループ分けを行った。
その結果、帰還兵の精神的、身体的障害を個人的な問題と、自殺やホームレス化などの問
題を社会全般における問題として分けることが出来き、帰還兵をめぐる諸問題について関
係図を作ることが出来た。社会的な問題は例外もあるが、ほぼ個人的な問題から派生して
生じる問題であり、また社会的な問題は他の問題を誘発する要因として存在しているとい
う相関関係にある。
また、帰還兵問題の解決を目指す上で、方向性や思考に違いがある点を明瞭にした。そ
れらは、アメリカの軍制に関連して3つに区別することが出来る。第1は、軍制自体を否
定し反戦によって帰還兵問題の回避を目指すものである。第2は、志願制にこそ帰還兵問
題の根本的な原因があるとし、徴兵制を復活させることで全員が戦争の負担を負い、問題
を和らげようとする考え方である。第3は、今の軍制には異議を唱えず、現状における政
策上の問題点を解決していくことを目指す考え方である。
本稿の第2の目的は、帰還兵問題に対する、国防総省(DOD/Department of Defense)と退役
軍人省(VA/Department of Veterans Affairs)の連携政策について分析し、評価することであ
る。(DODは、現役兵士の統制・管理を行い、補償責任を担っているアメリカ最大の省で
ある。一方VAは、除隊後の兵士の統制・管理を行い、補償責任を担っているDODに次ぐ
2番目に大きな規模と位置づけを持った省のことである。
帰還兵問題増長の最大の原因は、DODとVAの連携不足にある。この状態を打破するた
めに2省間が講じてきたこれまでの政策では、必要とされる対応と、実際に行われている
政策との間にギャップが生じることを政策分析の結果、明らかにすることが出来た。2省
間の連携不足による情報共有の欠如は、VAが除隊兵に対し、障害補償や医療サービスを
提供するまでに長期間かかってしまう状況と、VAが帰還兵問題に対して事前対策が講じ
られない問題とを招いている。前者(補償、サービス申請までの長期に及ぶ待ち時間)の問
題解決を図るためには、兵士がDODからVAへ自らの所属を移行させる際に、DODとVA間
で彼らの医療データを共有出来るようなシステムが必要となるが、後者(VAの事前対策欠
如)の問題について改善を図るには、兵士が入隊した時点から、医療データを含めた基本的

な情報(どんな人が、どんな状況にあるのか)について、DODとVA間で共有出来るシステム
が必要となる。しかし、1996年以降今日まで講じられてきた対応策についてそれらの政策
が焦点を置いている分野、時期について分析していくと、2009年に講じられたJoint Virtual
Electronic Record(JVER)以外は、共有される情報の分野は、「医療・補償申請」に関して、
そしてそれらの情報が共有される時期は、兵士がDODからVAへ「移行」する時であるこ
とがわかる。例外であるJVERは、入隊時から死ぬまでの兵士の一生に及んで彼らの医療情
報が、DOD、VAに加え、関連した連邦機関やプライベートセクター間で共有されていく
ことを目指す政策である。この政策は、一見、兵士の医療データに伴って、兵士の性別、
出身地方など、基本的なパーソナルデータについてもVAが兵士の入隊時から入手可能とな
るように思われる。しかし、実際には、JVERの利用は、現役兵、あるいは帰還兵の意思に
委ねられているため、このシステムによって政府側が強制力を持って兵士に関する諸情報
を管理出来るものではない。従って、最新の政策においても、VAの事前対策欠如という状
況を改善出来る有効な政策は講じられていないと言える。
VAの事前対策欠如という問題は、イラク・アフガニスタン戦争からの帰還兵問題につい
て言えば、問題が表面化する時(私たちが問題だと目で見てわかる段階、あるいは帰還兵が
問題だと感じる段階)には、VAの職員、施設、予算の不足や、女性兵士、地方出身者への
対応の遅れといった、事前対策が出来なかった結果として生じたその時々の具体的な問題
が前面にでることになった。そのため政府は、目前の問題(VAの職員、施設、予算の不足
や、女性兵士、地方出身者の問題)への対応に追われ、その先にある根本的な問題(VAの
事前対策欠如)についての対策まで行き届いていないのが現状ではないかと考えられる。
2省間が講じてきた1つ1つの政策に対する政策評価はこれまでにも行われており、賛否
両論存在してきたが、このように本来必要とされている対策と実際行われてきた対応策の
全貌を捉え、そこにギャップがあることを理由に、これまでの2省間の連携政策は不十分
である、との分析結果を提示したことが本稿の特色である。
今後の課題は、VAの事前対策欠如を改善するための政策が講じられてきていない原因を
さらに深く分析し、政策提言に繋げてゆくことである。また2012年から本格始動する予定
であるJVERの動向を追い、それが帰還兵問題解決において果たす効果を評価していくこと
である。

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