5/20開催グローバルカフェ「プーチンのロシアと世界」のまとめ

Update お知らせ グローバルカフェ

2017年5月20日
グローバルカフェ シリーズ「国際情勢を読む」
スピーカー:日本経済新聞社・池田 元博氏
講演タイトル:「プーチンのロシアと世界」

 

 

 

 

 

 

 

 

【要約】

Point1.プーチン大統領とは

 欧米を中心とする西側からは独裁者と名高いプーチン大統領だが、それに反してロシア国民からは信頼が厚く、何でもできる英雄的存在として大変人気である。今でこそ高い支持率を得ている彼だが、初めは全く無名で誰も知らないような存在であった。

 元KGB所属でサンクトペテルブルクの副市長を務め、エリツィン大統領時代末期の1997年に初めて中央政界入りを果たす。1999年になると、エリツィン大統領は将来自分の後任となるに相応しい人間を見極めるべく、数か月置きに首相を変えるようになる。その最後の候補となったのがプーチン氏である。彼はエリツィンファミリーを追及していたスクラトフ検事のスキャンダルを利用して失脚させたことで、エリツィン大統領からの信頼を勝ち得て首相となったが、この時もまだ国民からの知名度は低かった。

 彼の知名度が向上するのは、第2次チェチェン紛争時である。この時彼はチェチェンにいたイスラム勢力を、ロシアを脅かす存在として徹底的に叩いたことにより、国民は彼を「自分たちの生活を守ってくれる頼もしい存在」と認識し、ここで彼の人気に火が付いた。

 経済政策においては、エリツィン時代に急速に取り入れられた欧米式の経済政策によって、引き起こされた深刻なインフレの影響で大混乱に陥っていた国民の生活を、安定した、生活のしやすいものへと短期間に舵をとり、実現させた。国民の混乱を社会的かつ経済的に収めた上で、更に経済成長を促し、それを年金等で還元したことにより、ロシア国民はプーチン大統領を「自分たちの生活をよくしてくれる存在」と認識した。こうした背景により、無名だったプーチン大統領は国民から支持され、今でも89%以上の高い支持率を得ている。

 

Point2.プーチンの目指すロシア

 プーチン大統領は強い、偉大なるロシアを目指している。トランプ大統領が率いるアメリカも同じように「偉大なる強い国」を目指しているが、プーチン大統領の指す「偉大なる強い国」はアメリカのそれとは違うようだ。

 第1〜2期までのプーチン大統領のモチベーションは、ロシア国内の社会の安定と経済の成長にあった。第3期目となる現在の彼のモチベーションは、国内外問わずある程度の影響力を持つことにある。ロシアは国際社会において一強のリーダになりたい訳ではなく、何カ国のリーダ格の内の1つになりたいのだ。今の孤立した様な状態ではなく、西側を含めた国際社会のコミュニティの中で、偉大なる大国として認められ、一目置かれたプレイヤーとして君臨すること―それがプーチン大統領の目指すロシアである。それと同時に、それはソ連時代を郷愁する国民達の望みのうちの1つでもある。

 

 

 

 

 

 

 

 

Point3.ロシアと世界

 前項で述べたプーチンの目指す方向性に反して、現在ロシアはウクライナ危機でクリミア半島を併合したのを機に、2014年にG8の参加資格停止を受けている。欧米はロシアを侵略国家として強く非難し、対ロシア経済制裁を発動させた。それと同時にNATOの防衛力強化を行い、バルト三国とポルトガルに軍を駐在させている。これに対しロシアは欧米の食料品輸入を禁止する対抗措置を導入し、互いの関係は大幅に悪化し、依然冷え込んだままである。

 プーチン大統領の率いるロシアは最初から今の様に西側に対し強硬であったのかというと、そうではなかった。少なくとも2000年初期のプーチン大統領は、日本含む西側の国々との関係を改善しようとしていた。また、ロシアの民主化を進め、西側に近づこうとしていたとも語った。では何故現実そうなっていないのだろうか。その背景にはプーチン大統領が西側諸国に対して不信感を募らせていった点が大きく関係している。

 元々プーチン大統領率いるロシアは国連安全保障理事会を重視していた。欧米を中心とした西側はロシアに対して、民主主義化をより求め、国際規範を守るように強いてきた。その一方で、彼らは国連安保理決議抜きでイラクへの攻撃を強行したり、2008年にセルビアからのコソボ自治州の独立を、反対派を押し切って承認したりするなど、ロシアから見れば、国際規範を守らず、ダブルスタンダードともとれる行動を採決してきたのだ。その他にも、ロシアはソ連時代設立した軍事同盟・ワルシャワ条約機構を冷戦終了後に解体した上で、同様に西側にもNATOの解体を求めるが、西側はこれを断り、寧ろ拡大措置を取り続けていった。国際規範を重んじるプーチン大統領からすれば、西側の上記の様な動きは、全くもって信用ならないものであったろう。それならば、プーチン大統領が「西側諸国が国際規範を守らず好きにしているなら、我々も」という考え方になっても別段おかしくはない。ロシア側からすればソ連崩壊時にウクライナに含まれてしまったクリミア半島は、本来自分たちの領地であって、それを取り返した程度の感覚でしかない。それを侵略行為だと言うならば、西側のしてきたことは違うのかというのが彼の主張だ。ロシアがウクライナ危機について、どっちもどっちといった主張をするのも一理あると言えるだろう。こうした背景を踏まえ、ここまでロシアに強硬措置を取る様に仕向けた原因は、西側諸国の政策に対する不信感や不満感が大きくあったことを忘れてはならない。

 ウクライナ危機後、西側との関係が悪化しているとはいえ、ロシアとていつまでも孤立状態でいるわけにはいかない。そこでロシアは中国へ接近していった。中国がクリミア半島併合について明確な批判を行わなかった点や、アメリカ一強批判を長きに渡って主張しているという共通点が大きい。今ではこの2国間は蜜月状態にある。加えて、対テロで国際協調を提唱しシリアへ介入するなど、西側ができなかったことや、しなかったことを行うことで、国際社会において存在感を出し、国際的な孤立を回避している。西側もまた、何が何でもロシアを遠ざけたい訳ではないようだ。アメリカと一緒になって制裁を行っている欧州だが、天然ガスの輸入などの経済的側面ではロシアへの依存度が非常に高く、欧州の中では制裁を解くべきだという声も上がってきている。政治的には世界はロシアを締め出したいが、無視はできない―それが現状のロシアと世界の関係と言えるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

【コメント】

 参加者と同様、私自身もこの講演を聞くまではロシアのことをよく分かっていなかった。西側諸国のする行動と異なるアプローチを行うのは、ロシアが西側と仲が悪いからだろうといった程度の認識であった。しかし、こうしてロシアの視点から立って一つ一つの出来事を追うと、その行動には一貫性があり、必ず根底にあるのは「偉大な国」へ導くためのものであると気付かされる。だからといってウクライナ危機でのロシアを擁護する気はないが、欧米を中心とした西側の主張にも疑問を感じる。それぞれの国には思惑があり、大義名分があり、そして正義がある。その正義をどう見るか、どういった視点をもってしてその行動を見るのか、それによって物事は大きく変わってくるのだろうということを、改めて痛感させられた。

 アメリカでの大統領選はトランプ氏が勝利したことで、米ロ関係が改善されるのではないかと思われたが、世界情勢を見る限りでは米ロだけでなく、西側とロシアの関係改善は当面、見込めない。日本もその西側の一員であることには変わりないが、欧米とは温度差があるのも事実だ。北方領土問題の解決を目指すのと同時に、欧米と足並みを揃えて対ロシアへ制裁を続けることは難しいのではないか。現に安倍首相は2016年にクリミア半島併合後、2年ぶりにロシアと何度も会談を実施しており、共同経済活動や、医療・健康、都市づくりにおいての協力を自ら提示している。日本としては、北方領土問題の解決は長年の悲願であるし、また、中国と北朝鮮の軍事的脅威がある以上、ロシアと仲良くしておきたいのが本音であろう。時間が過ぎれば過ぎるほどに、物事は硬直し解決が難しくなっていくのは万事に通ずることである。私たちの日本の正義はどこにあるのだろうか。この国際情勢の変動が激しく揺すぶられている今、日本国の在り方が試されている時期にあるのかもしれない。

 

(文責:事務局長・福田聡菜)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です